そのERP、誰得ですか?

そのERP、誰得ですか?

エンドユーザサポートという立場からERP導入支援をおこなった際のお話です。ERPを導入し利用する人達はそのERPのメリットを本当に享受しているのか、御一考の機会になれば幸いです。

ERP導入支援トレーニングにて

「今回の新システムはユーザのためではなく、上の方(経営者)のためのシステムなんです、、、」

某日、ERPパッケージの導入を支援する立場として導入する企業の情報システム部の方と一緒にエンドユーザトレーニングをする機会がありました。現行システムから新しいERPパッケージのシステムになるとどのような操作で処理していくのかを説明し、実際に操作してもらうトレーニングの初回です。

トレーニングを受けていたのは営業や受発注をシステムで手配担当する人達です。冒頭のセリフはトレーニング終了後に情報システム部の方ががっくりと肩を落とし、無念そうに漏らした言葉です。これはユーザから下記のような感想、意見を受けて、ユーザへの理解を示すためつい出てしまったようでした。

「現行業務では1件の受注入力は5分もかかりません。新しいシステムでは入力項目が多く使いづらいです。時間がかかりすぎて当日の受注処理がさばけそうにないので受発注担当者を新しく倍に増やすよう今すぐ検討してください。」

「製造工場との意思疎通や製造の依頼はシステム内でどうやって行えばいいのか?」

「今のシステムで見えている部課別の在庫一覧が、新システムでは機能がないと聞きました、見えるように追加開発してください!」

「このままでは得意先に納期どおりに納品なんてできない、取引先に何て説明しよう、、、」

要件定義や設計はとうに終わり、各種パラメータ設定、開発などまだ途中の部分もあるとはいえ、デモ機を使って実際の稼働を想定しての操作トレーニングでしたので、一見わかりづらく見えた画面の操作性や機能面の不足があるように見えてユーザには不安を残す結果となってしまいました。その時点で本番稼働予定まではあと半年、既にERP導入の決定は覆りません。

トレーニングに参加するため、泊り出張で来られている営業の方もいましたが、スーツケースを引いて帰途につかれるその様子が物憂げそうです。

「なぜ今より機能も操作性も不便なシステムになるのか、現状のシステムで自分達は問題なく使えているのになぁ、、、」

その背中が語っているようでした。

ERP導入は誰のためのシステムか

新しいシステムが導入されると聞いて、誰もが今より便利で快適になると思うはずです。では、どうしてこのような印象をユーザは持ってしまったのでしょうか。

ERP導入のメリットとは、以下のことなどがよく挙げられています。

  • 財務状況の可視化:ヒト、モノ、カネのデータが連動し、一元管理することによる経営状況の見える化により、経営戦略、判断が迅速に可能になる。
  • コスト削減:各国間、部署間でサイロ化している独自開発のシステムをERPに統合し、将来的なメンテナンスコストの削減となる。
  • 業務プロセス全体の最適化:世界中にある支店、関係会社を含めて統合し、システムプロセスがERPで統一されるため、全体を最適化して業務を効率化することが可能となる、また今後の業務プロセス変更も強くなる。

よく見聞きするERP導入のメリットは経営者側の視点で語られています。実際にこの導入企業では、今まで部署でバラバラに構成されている受発注システムや製造システムを使っていたので、各システムのデータを集計して売上や原価、利益率を確認するには多くの時間が必要であり、ERP導入によって次の日の朝には全国や海外の拠点の売上を確認することができるようになりました。集計したデータの分析も今までより正確に、よりスピーディに可能です。この辺りのデータ集計、分析力の工場はこの導入企業にとっては劇的な進化でした。

また月次、四半期、年次の会計決算なども今までよりも短期間で行うことができるようになります。これで導入後も問題がなければ対外的にもERP導入に成功した企業としてメディアに取り上げられ誇らしい気持ちになれるかもしれません。経営者側は比較的わかりやすくERPの恩恵を感じられます。

一方、ERPを操作して日々の業務、販売、製造、購買、会計処理を行うのはエンドユーザですので、実際に操作するユーザからすると、現行のシステムと比較せざるを得ません。独自開発でその事業に特化したシステムと比べるとERPパッケージの汎用的な感覚が不便に感じてしまうことがあります。

なぜかというと、汎用的な機能の代償として使わない入力項目や一見すると意味がないように見えるデータがユーザに表示されてしまうためです。ERPではデータが一元的に管理される反面、販売、製造、購買と会計がつながる場合にそれぞれの領域ごとのデータを持つため、データ構造が複雑に見えます。現行システムの項目を絞った画面やその企業に特化したデータ構造に慣れている分、拒絶反応が多いのです。

これはその導入企業の独自システムがよくできていたということでもあります。日本企業のシステムは作りこんであるものが多く、ユーザからは便利に使えて、システムの裏では複雑な処理をこなしているからです。

ERPパッケージの標準機能は汎用的な分、最低限でシンプルな動作が多いためユーザからするといちいち操作しないといけない印象を与えてしまうようでした。

このように、ユーザは操作性や機能面ではERP導入メリットの恩恵が見えづらく、デメリットのほうが大きく見えてしまうこともあります。

ユーザのためのシステムに

このようにERPパッケージ導入については経営側のメリットだけではなく、それを日々使うユーザが混乱なく利用できるように日常の業務目線での操作、機能の問題を認識し解決に導くための支援が不可欠です。

今回の導入企業の場合は前述のトレーニング開催から時間が経ち、ユーザの方々からは現状のままではいけないという危機感と関連する取引先に対する真摯な気持ちからか、現実的なシステム改修検討の要望や再度のトレーニング依頼が相次ぎました。

ユーザの意見を受け入れ、システム改修として追加設定、開発を行うのはユーザの不満を解消する特効薬ですが、追加の開発となると開発コストが高くなりますし、標準機能ではないものを作れば作るほど将来的なメンテナンスも必要になります。こちらは必要なものを厳選し、追加しました。

他にユーザ支援として私達はシステム仕様を変更せずに、ユーザがいかに新しいERPに歩み寄れるかに注力し、操作や機能を細部まで検証確認し、よりユーザの実業務に即した使い方ができるようマニュアル作成や追加トレーニング、本番稼働前後のヘルプデスク対応を行いました。

システムがユーザに歩み寄り、ユーザがシステムを理解しそれに適応しようと努めた結果、最終的にこの企業ではそれほど大きな混乱もなく導入を迎えることが出来ました。今では新しいERPでの業務効率化、最適化を日々図っておりより使いやすいシステムへと洗練されています。

この期間、トレーニングから稼働前後のユーザ支援を通じて、ERPというものがデータを集約させる単なるシステムではなく、企業の経営者、システム担当者、ユーザからどのように見え、その企業の内外に属する人達のためになるERPというのはどうあるべきなのかを考えさせられた次第です。

それを実現するERPの技術はこの先どのように進化していくのでしょうか。興味は尽きません。

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