簿記を学ぼう!~3~ [見越と繰延の必要性と処理方法について]

簿記を学ぼう!~3~ [見越と繰延の必要性と処理方法について]

2016.07.13

業務系システムには、必ず関わってくる会計の知識。全ての基本は「簿記」にあります。前回の Break time 1 では、簿記の歴史について取り上げましたが、そのときに少し出てきた期間損益会計に関連する内容を今回は取り上げていきます。ずばり、簿記の本に良く出てくる見越と繰延についてです。

はじめに

前回のコラムはこちら

簿記3級ぐらいから登場する 見越 と 繰延 という言葉ですが、会計初心者にとっては馴染みづらいもので、仕訳の方法はわかっても、どういう意味を持つのかが理解できていないというケースがかなり多いです。そこで、今回は、しっかりと理解するために、なぜ見越と繰延が重要なのかを掘り下げていきます。前半は、見越と繰延の必要性、後半は、簿記の見越と繰延の処理方法です。

見越と繰延はなぜ必要か?

見越と繰延の重要性を理解するためのキーワードが 期間損益計算 です。期間損益計算とは、一定期間の損益を計算することを指します。たとえば、一年間や四半期という会計期間ごとに、上場企業が決算書を作成して、期間ごとの損益を発表しています。株式会社は、一定期間に儲けた金額に応じて株主さんへ配当金を配当する仕組みになっているので、期間ごとの損益は大事な指標となります。費用と収益を正しい会計期間で計上するための大事な処理が見越と繰延となります。

会計期間ごとの損益(期間損益計算)はなぜ大事か?

こういった会計期間ごとの損益の計算をすることを 期間損益計算 といったりします。株式会社や財務諸表が普及した現代からみると、当たり前のように思えてしまいますが、実はこの期間損益計算の歴史はそこまで古くはありません。17世紀前後からようやく広まってきたものとなります。期間損益計算の大事さを感じるためには、期間損益計算の前によく用いられていた口別損益計算(くちべつそんえきけいさん)というものから振り返る必要があります。

口別損益計算とは、期間ごとではなく、取引ごとに損益を計算することです。たとえば、大航海時代に莫大な利益をもたらした貿易が例としてよくあがりますが、一回の航海ごとに、出資者から元手(資本)を集めて企業をたてて、航海が終わったら清算して企業を解散します。清算の際に出資者に資本を返して、獲得した利益を出資者に分配するようなやり方です。

ちなみに、そのように1回の事業で解散する企業は当座企業と呼ばれます。当座とは、“その場“や”さしあたり“という意味ですから、悪い言い方で言えば、計画性もあまりなく、不安定な、場当たり的な性質をもっていました。また、技術が発展していなかった当時は、航海はハイリスク・ハイリターンなものであったため、不安定性から出資者を集めるのも難しく、不特定多数というより、同族から集めてくるのが一般的でした。さらに、現代の期間損益計算と違って、航海が単位なので会計期間という考え方はありませんでした。

貿易が莫大な利益をもたらす時代に、商人だけでなく国も乗り出して作ったのが、東インド会社 となります。東インド会社は、たくさんあるのですが、特に、歴史的に有名なところが イギリス東インド会社 と オランダ東インド会社 の2つです。貿易業は、莫大な利益を生む代わりに膨大な資本が必要になる事業だったので、いままでのように同族だけでなく、不特定多数の出資者から資本を集めてくる必要性が増してきました。その状況下でイギリス東インド会社は、引き続き口別損益計算を使用していましたが、航海の度に、資本のお金(資本金)を集めて、返還する、という特性から、資本金にいくら使えるかわからず、事業への投資が不安定になっていました。

また、航海のハイリスク・ハイリターンも変わらず常に不安定な状態です。現代の日本社会と同じく、不安定なものには、なかなかお金をだしてくれないもので、資本金を集める障害となっていました。これに対する対応策を導入したのがライバル会社のオランダ東インド会社となります。航海の度に企業を解散する口別損益計算をやめて、企業はずっと継続していくものとして扱っていこうという新たな考え方が使われました。

画期的なところは、いくつかあるのですが、たとえば、今までは、航海の度に、清算として出資者に資本金を返していたのですが、新しい仕組みでは、企業は継続しているものと考えますので、資本金は航海が終わっても返さずに、引き続き事業の投資に使うことができます。これによって、いままでにない安定性 が生まれました。これに伴い、出資者への配当方法も変わり、いままでは資本と利益を出資者に返していただのですが、新しいやり方では、企業側が継続していきますので、資本は返還せずに、利益だけを配当する方法に変わりました。

これにより、利益の計算については、正当な配当のためにより正確なものが求められるようになりました。別の側面として、航海の度の清算しなくなったので、どのタイミングで利益を配当するかが問題になりました。そこで、一定期間に出た損益を計算して、定期的に配当することにしました。これが、期間損益計算の誕生です。

これにより、いままでの口別損益計算では全てが1つの航海次第ですので不安定な配当がおこなわれていましたが、期間損益計算では一定期間ごとに利益の配当を受け取れるようになりますので、更なる安定性がうまれました。このように、オランダ東インド会社の継続的な企業としての新しい枠組みは、安定性を生み、不特定多数の出資者から資本を集めることに成功し、莫大な利益を生み出しました。

一方、口別損益計算を採用していたイギリス東インド会社は大きく遅れをとる形になり、最終的に期間損益計算に切り替える破目になりました。この優れた仕組みは、まさに現代の株式会社と先駆けといえます。そのため、オランダ東インド会社は世界初の株式会社とも呼ばれます。この誕生によって、会計も商業も現代までめまぐるしい発展を遂げることになります。

見越、繰延

歴史の流れが長くなりましたが、要するに、当座企業の代わりに、オランダ東インド会社のような継続的な企業が誕生したことによって、出資者への利益の配当のために、期間ごとの損益の計算が必要になったこと、また、利益については、資本とは別に正確に計算しなければいけないようになりました。これが、会計処理で今期や来期というように会計期間ごとの損益の明確な区別が頻繁に求められる理由です。

比較的わかりやすく行われる会計処理、かつ、期間ごとの損益を計算する上で絶対に必要なものの一つが見越と繰延です。簿記の本には、ここからの内容はたくさん書いてあるので、簡単にだけ書いておきます。

1 繰延

2 見越

上記の図では、1年分の保険料を前払いしたケース1と後払いにするケース2の2パターンが書かれています。

  1. 前払いした場合は、12か月分の費用を計上していますが、6ヶ月分は来期の費用ですので、来期の費用にするための仕訳をつくります。これが繰延の処理。
  2. 後払いにする場合は、まだ費用計上していませんが、6か月分は今期の費用ですので、今期の費用にするため仕訳をつくります。これが見越の処理です。

保険料だけならたいした金額ではありませんが、多くの費用と収益についても同じことがいえるので、会計期間ごとに見越と繰延の処理は、非常に多くの会計処理に付随して出てきます。数多くに適用される分、それなりの金額になりますので、会計期間ごとの利益にインパクトを与え、株主への配当金にも影響するので無視できないものとなります。

まとめ

簿記を勉強すると、見越と繰延が面倒だと感じるケースはかなり多いと思いますが、この会計期間ごとの損益という考え方は、株式会社の成り立ちから鑑みるに現代の経済を発展させてきた重要な要素です。たまには期間損益計算の恩恵を思い出しつつ簿記を勉強していきましょう。

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