Society5.0の実現に向けた改革の要諦(1)海外のSTEM教育の現状

Society5.0の実現に向けた改革の要諦(1)海外のSTEM教育の現状

2017.07.13

政府主導の「未来投資会議」が開催され、未来投資戦略のテーマとして「Society 5.0の実現に向けた改革」がいよいよスタートしました。今後イノベーションをめぐる疾風怒涛の国際競争が激しくなる中、我が国は、その実現をもって日本再興を目指しています。アメリカをはじめとした世界のムーブメントから「Society 5.0の実現に向けた改革」要諦を前後編で解説します。

世界的なムーブメント「STEM教育」

現在、世界的なムーブメントとして「STEM(ステム)教育」が注目されています。 Science(科学)、Technology(技術)、Engineering(工学)、Mathematics(数学)4分の英頭文字を組み合せたSTEMです。その教育によって、4分野のリテラシーを備えた人材育成が注目を集めています。

アメリカのキャリア情報サイト「glassdoor(グラスドア)」大卒者の給与を卒業後5年間にわたって調査した結果を次の通り発表したと報道がありました。

「最も『カネになる』専攻分野はコンピューターや数学、工学関連」である。卒業後5年の給与のTOP10の専攻分野で看護(9位)を除く9つの専攻分野がSTEM関連「コンピューターサイエンス、電気工学、機械工学、化学工学、生産工学、情報技術、土木工学、統計学、管理情報システム」で占めている。(出典:Forbes Japan2017年)

現在のアメリカではSTEM分野の人材需要が極めて高くなっていることを示しています。ちなみに1位のコンピューターサイエンスの卒業後5年の平均基本給は年間7万ドルで、加えてボーナスや各種手当が加算されているとのことです。

経済大国であり続けるための問題点

アメリカでSTEM人材育成の本格的な取組みは、オバマ前大統領の2009年1月の就任演説並びに、同年4月のナショナル科学アカデミーの年次総会の講演で「科学技術・イノベーション政策」を述べたことに始まりました。

アメリカにおいてSTEM教育が国家戦略として、世界に先駆け取り組んだ最大の背景には、スティーブ・ジョブス(Apple)、ラーリー・ペイジ、セルゲイ・ブリン(Google)、マーク・ザッカ―バーグ(Facebook)、アンディ・ルービン(Android)、イーロン・マスク(スペースX)などシリコンバレーの名立たる起業家を輩出し、これまでの世界のIT市場を築き上げかつ席巻し、未来の最先端市場を創り上げる力を持つアメリカですら、近年の技術革新による産業構造や社会構造の大転換の潮流において、STEM関連産業の人材需要に対応ができないという危機感からです。

アメリカのSTEM関連産業の人材需要は「U.S. Department of EducationScience, Technology, Engineering and Math: Education for Global Leadership」で示された通り、2020年(対2010年比)に大幅な拡大が予想されています。

出典:U.S. Department of Education Science, Technology, Engineering and Math: Education for Global Leadership https://www.ed.gov/stem

一方で大幅な不足が予測されるSTEM人材

これら人材需要に対するSTEM分野の卒業生が100万人不足されると予想され、この問題の解決策としてのSTEM教育の理想的な体制の整備ができていない課題が浮き彫りになったためです。仮に充足できない場合は、International Monetary Fund(IMF:国際通貨基金)が発表しているアメリカの2022年Gross Domestic Product (GDP:国内総生産):23兆7,600億ドル(2016年同:18兆569億ドル)にブレーキがかかる恐れすらあります。

抜本的な解決に向けてのSTEM

国家の経済成長に影響を及ぼす起業活動に関するGlobal Entrepreneurship Monitor(GEM:グローバル・アントルプレナーシップ・モニター)における調査結果において、アメリカは起業活動の水準が「事業機会意識指数推移(今後6ヶ月以内に、自分が住む地域に起業に有利なチャンスが訪れるとする成人人口割合)」、「知識・能力・経験指数推移(新しいビジネスを始めるために 必要な知識、能力、経験を持っているとする成人人口割合)」指数に示されている通り、高いことが分かります。これらの背景を受けてSTEM専攻分野の人材が市場で活躍しかつ有能な起業家を多く輩出、ベンチャー企業が生まれ成長を遂げています。

需要と相反する教育現場の現状

一方で、Organisation for Economic Co-operation and Development(OECD:経済協力開発機構)が実施している「Programme for International Student Assessment2015(PISA2015:生徒の学習到達度調査)においては、平均得点が数学的リテラシー:40位、科学的リテラシー:25位、読解力:24位と下位に留まっています。

さらに、The International Association for the Evaluation of Educational Achievementd(IEA:国際教育到達度評価学会)が実施している「Trends in International Mathematics and Science Study2015(TIMS2015:国際数学・理科教育動向調査)」では、平均得点順位が小学校算数:14位、理科:10位、中学校数学:10位、理科:11位と低迷状態にあります。

これら教育現場の現状を謙虚に受け止めかつアメリカにおける今後のSTEM関連産業の人材供給不足を鑑みて、対象となるK-12(kay-through-twelve:幼稚園から高等学校卒業までの13年間)の教育システムからメスを入れることこそが抜本的な課題解決策であると結論づけています。そのための様々な教育改革に取り組みによって、来の危機回避と技術革新による産業構造・社会構造の大転換の潮流を経済大国アメリカの地位を盤石にする大きなチャンスとして捉えていると言えます。

事業機会意識指数推移

知識・能力・経験指数推移

出典:平成28年度産業経済研究委託事業(企業家精神に関する調査事業)報告書(平成28年度)経済産業省 (P22/P23) http://www.meti.go.jp/policy/newbusiness/h28sangyoukeizaikenkyuitaku_houkokusho.pdf

推進される「STEM Women」いわゆる「リケジョ」の参画

また、STEM教育に対して女性の参画を促す施策も併せて推進されています。アメリカでは理工系女性を、『STEM Women』と呼びはじめ広がり関心が高まっています(出典:United States Department of Commerce Economics and Statistics Administration (米国商務省 経済統計局)が2011年に発表したレポートWomen in STEM: A Gender Gap to Innovation)。

いわゆる日本でいう『リケジョ(理系女子)』です。アメリカの全職業に対する女性労働人口比率は48%(我が国の女性労働人口は43%)に対して、STEM関連職業ではSTEM Women比率は24%に留まっています。また、2009年のSTEM Womenの人数こそ対2000年で約19.7%増になっていますが比率はな24%と横ばいになっています。これらを受け、官民が連携する形でSTEM関連学部のSTEM Womenを支援し、民間STEM専攻分野の独自の支援プログラムも進んでいる状況です。

出典:U.S. Department of Commerce Economics and Statistics Administration Women in STEM: A Gender Gap to Innovation http://www.esa.doc.gov/sites/default/files/womeninstemagaptoinnovation8311.pdf

STEM学部卒業学生数の国際比較

群を抜く中国

2016年のSTEM学部の卒業学生数は、中国が470万人と圧倒的に多く、中国国内の2013年STEM学部卒業学生数では学生全体の40%を占め、さらに2030年にはその比率が60%にも達するとの予測がされています。バイドゥのように、AI領域で世界を牽引する企業も出てきているとのWorld Economic Forum (WEF:世界経済フォーラム)が発表したと「出典:Forbes Japan2017年」にて報道がありました。

ダークホース、インドネシアの存在

ダークホースとされているのが世界第4位の人口のインドネシアです。STEM学部卒業生が急増して20.6万人で、我が国の19.5万人を超えてきている状況です。インドネシアのベンチャー企業のTokopedia (トコペディア:2009年創立)は、インドネシア最大のオンライン・マーケットプレイスへと急速に成長を果しました。2014年にはソフトバンクグループのSoftBank Internet and Media, Inc.(SIMI:ソフトバンク・インターネット・アンド・メディア)が出資をしました。マーケット規模と労働力に期待がされ、南アジアのHUBとしての存在感を高めています。

いずれにしても、Gross Domestic Product (GDP:国内総生産)世界第2位の経済大国中国は、同第1位のアメリカと同第7位であるもののサティア・ナデラ(Microsoft)、スンダ―・ピチャイ(Google)など世界の名立たるIT企業の最高経営責任者を数多く輩出し続けているインドを脅かす程に、技術革新の潮流をビジネスチャンスとして捉えアメリカ、インド以上にSTEM教育への取組みを加速させているといえます。今後イノベーションをめぐる疾風怒涛の国際競争はさらに激しさを増していく様相を呈しています。

STEM学部 国別学位取得学生数(2016年)

出典世界経済フォーラム(WEF)2017

次回は日本の現状について

これら世界的なムーブメントの中にあって、我が国では日本再生本部の下、成長戦略の司令塔の位置づけで未来投資会議(2016年9月~2017年6月まで全10回)開催され、第10回会議により『未来投資戦略2017』がまとめられ同日閣議決定されました。

後編では、ドイツの「Industry 4.0」やアメリカの「Industrial Internet」に対抗する形で策定された日本再興の鍵となる未来投資戦略のテーマ「Society5.0の実現に向けた改革」の要諦は何かを解説します。

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