Society5.0の実現に向けた改革の要諦(4) 「グローバル社会に、日本人がいない?」-海外IT人材との意識の違い

Society5.0の実現に向けた改革の要諦(4) 「グローバル社会に、日本人がいない?」-海外IT人材との意識の違い

2018.01.09

海外で日本人を見かけない?グローバル企業でもオフィスに日本人は一人だけ、大学院でも全留学生に対し日本人はわずか0.2%だけ…など、海外の競争からどんどんと日本人が取り残されつつあります。そこには、どんな意識の違いがあるのでしょうか。シリーズ第4弾では、このような「意識の差」に注目します。

国際競争に対する低い危機意識

平成26年6月10日付けの経済産業省によるアメリカ、インド、タイ、インドネシア、ベトナム、中国、韓国、日本の8カ国のIT人材を対象とした調査報告「IT人材に関する各国比較調査報告書」の中に次の質問項目があります。

『自分の仕事が将来海外の企業に奪われてしまうのではないかと感じている』

これに対して、世界のIT産業をリードしているインドとアメリカの回答が「よくあてはまる」と「どちらかと言えばあてはまる」の回答比率が70%を超えて4人中3人は強い危機感を持っていることに驚かされます。

危機意識を感じる要素① 中国の動向

第一には、前編で述べたように、現在の中国の動向にあります。現在中国は、GDP世界第2位ではあるものの、二ケタ成長が鈍化し2010年以降下がり続ける状況にあります。この状況からV字回復させGDP第1位の座を射程圏内に収めるのに必死です。そのために第一次・第二次産業から第三次産業化へ転換をはかりつつ、将来あらゆる民間産業や軍事産業に影響を及ぼすSTEM関連産業を支えるSTEM分野の学位取得者の育成に国をあげて注力しています。それらの人材によって今後の激しさが増すイノベーション分野の国際競争の主導権を握ろうとしています。この中国の動向が脅威であり危機感を生んでいると言えます。

危機意識を感じる要素② AIサービスの存在

今後台頭が予想されるAIサービスの存在です。著者がインドの大手コンサルタント企業のマネジメント層と本データに関してインドのIT技術者の意識との齟齬がないかを伺ったところ、次の回答が返ってきました。
「このデータの通りインドのエンジニアは、確かに強い危機感を持っている。海外企業へ奪われるという危機感に加え、今後AIサービスによってコーディングなどの仕事は奪われるという危機感を強く持っている」と述べ、本データを裏付ける結果となりました。

また、アメリカはかつて製造業を中国などに奪われ大量の失業者を生みました。しかしながら、アメリカの失業者数と同じ雇用が中国などで生まれませんでした。生産ラインの自動化によって、失業者の増加を招いたとも言われています。つまり、海外の企業に奪われるという強い危機感の中には、他国のAIサービス(かつての生産ラインの自動化と同様に)によって、仕事を奪われるという危機感も含まれていると著者は考えます。

危機意識を感じる要素③ インドネシアの台頭

第三に、世界第4位の人口で圧倒的な労働力を武器とする新興勢力のインドネシアの存在が考えられます。アジアにおいては、タイ、インドネシア、ベトナムの3カ国も同回答比率が60%以上と危機意識を持っていて、新興勢力でありながらも国際競争の厳しさを実感している結果です。

これに対して日本は「まったくあてはまらない」と「どちらかと言えばあてはまらない」の回答比率が57.4%と調査対象8カ国中最下位で、IT産業のグローバル化に対す危機意識が極めて低く、依然としてガラパゴス状態にあることが示されています。

海外のエンジニアとの低い競争意識

また、『海外での勤務意向』という質問項目では、調査8カ国の中で「日本」を除く7カ国は「強くそう思う」「ある程度そう思う」「多少興味がある」の回答比率が75%以上あり、「あまりそう思わない」がわずか15.6%以下に対して、「日本」だけが「あまりそう思わない」の回答比率が56.2%と突出して高くなっています。

オフィスで見かけない日本人

これに関連して、著者がEU最大級のソフトウェア企業のUnited States Headquarters(ウェストチェスター)勤務の日本人マネージャから次の話を伺いました。

「アメリカオフィスには数千人の多国籍の社員が勤務している。1番人数が多いのはアメリカ人ではなく中国人で、その次がインド人だ。中国とインドの多くの優秀な人材が働いている。残念ながら日本人は私一人だ」と日本人が他国の社員数と比較して極端に少ないことを嘆かれていました。

独立行政法人日本学生支援機構(JASSO)が行った「平成23年度海外留学経験者の追跡調査報告書」の「留学後の状況(帰国後の進路)」において日本人留学生が現地就職した割合は5.8%と低く、帰国して日本企業への就職をする割合が極めて高くなっています。

アメリカンドリームに挑戦する海外勢

この状況は、ビザの取得という障壁もありますが、それ以上次のような実態があります。アメリカの新卒者の就職活動は競争が激しく、その状況下にあっても多くのインド人・中国人留学生は果敢にアメリカンドリームにチャレンジして採用を勝ち取っている状況です。特に、インド人の活躍は抜きんでています。

IT業界でいえばシリコンバレーを中心に、Googleの最高経営責任者サンダー・ピチャイ氏やMicrosoft の最高経営責任者サティア・ナデラ氏など多くの優れた経営者を生んでいます。勿論、他の産業においても同様です。

アメリカの大学院では希少な日本人

アメリカ国立科学財団(National Science Foundation:NSF) の報告書によれば、2012年アメリカの大学院(コンピュータ科学系)留学者数は、合計で20カ国:27,020人。内インド人:⒓,280人(45.4%)、中国人:7,550名(27.9%)、サウジアラビア:1,250人(4.6%)と続き、我が国は、18位で僅か60名(0.2%)です。

 

出典:GLOBAL NOTEIT(アメリカ国立科学財団:National Science Foundation:NSF)を加工して作成

また、インドのウェブサイトニュースFirst Post(2015年8月15日)の報道でも「2014年の調査でシリコンバレーのテクノロジー系新興企業の15%が、インド人によって立ち上げられ、イギリス人、中国人、台湾人、日本人の4カ国の移民が設立した合計企業数をも超えている」と報じています。

「カムバック・サーモン症候群」

そもそも、ワールドワイドで日本人留学生の総数(2015年)は84,456人。内、期間が1年以上の留学生数が1,913名(対全日本人留学生の2.2%)と少なく、大多数が1年未満の短期留学という状況です。

みなさん、鮭はどのように回遊するかご存知ですか?鮭は川(日本)で生まれ、海に下り太平洋やベーリング海などを回遊(海外留学)し、最終的に母川(日本)に回帰していきます。

これに同じく、大志を抱き海外留学に臨みながらも就職先の選択は、海外(外洋)での激しい就職活動(荒波)を避け日本(母川)に戻り、学生にとって売り手市場でありかつ留学生が優遇される傾向のある日本企業への就職を選ぶ。さらに、少子化により、親元から離れた子どもに対して「将来、地元(親元)に戻って来い」と願う親の希望を叶えようとする背景が読み取れます。著者はこれらの現象を『カムバック・サーモン症候群』と呼んでいます。

防げるか、「人材のガラパゴス化」

同様に先に記載した「アメリカオフィスに日本人は私一人」という言葉の裏側には、我が国のIT人材は「海外のエンジニアとの国際競争という荒波に飛び込み勝ち抜き活躍したい」という『個人のグローバル化』への対応意識の欠如と我が国のIT技術と製品ガラパゴス現象が国内市場に最適化して、世界市場から受け入れられないというが個人にまで侵食し、日本の市場環境のみに最適化してグローバルから孤立する『人材のガラパゴス化』への道を歩みつつあります。我が国のIT人材のグローバル市場からの淘汰へのカウントダウンが始まりました。

次回シリーズ(5)は、シリーズ(2)「日本のIT人材の現状」の中の『人口減少がもたらす危機』で解説した経済産業省の施策に関して、掘り下げて解説をします。

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