自閉症療育とロボット ~人間と二人三脚で歩むヒューマノイドロボットの役割~

自閉症療育とロボット ~人間と二人三脚で歩むヒューマノイドロボットの役割~

今や物珍しい存在ではなくなりつつあるロボットは、その活用範囲も、単なるエンターテイメントだけではなく、様々な役割を担うようになってきました。その中で、ヒューマノイドロボットは、自閉症療育の分野において活用可能性が注目され、研究論文も多く発表されています。本記事では、ヒューマノイドロボットの役割と自閉症について、それぞれ考えてみたいと思います。

自閉症療育とロボット

2018年7月、滋賀県大津市で行われた「第53回 全国特別支援学校 知的障害教育教頭研究大会」において、「知的障害教育におけるICTやAIの活用の可能性と課題」というシンポジウムが開かれました。JTPからもシンポジストとして参加し、「自閉症療育にロボットがなぜ有効か?」というテーマで、「自閉症療育とロボット」について講演しました。

全国特別支援学校 知的障害教育教頭研究大会 滋賀大会でのシンポジウムの様子

自閉症療育の分野においては、ロボット、とりわけヒューマノイドロボットの活用が注目されており、多くの研究論文も発表されています。それは、療育において抱えている問題に対して、ヒューマノイドロボットの特性が親和性が高いと考えられているためです。

今回は、ヒューマノイドロボットの自閉症療育への関わり方について、紹介していきたいと思います。

ヒトの形をした機械、それがヒューマノイドロボット

ヒューマノイドロボットは、その名の通り「ヒト型のロボット」です。代表的なものだと「Pepper」や「NAO」、「Sanbot」「ロボホン」や「Sota」など、さまざまな種類があります。

ヒューマノイドロボットNAO

ロボットの歴史

ロボットの歴史を紐解くと、はじめにロボットという言葉が初めて使われたのはチェコの作家であるカレル・チャペックによって1920年に発表された戯曲『ロボット(R.U.R)』であると言われています(余談ですが、この作品は1920年に書かれたと思えないくらい衝撃的な作品ですので、ロボットに関わる方は、ぜひご一読することをお勧めします)。

日本のアニメ史においても、鉄腕アトム、ドラえもん、鉄人28号、機動戦士ガンダム、マジンガーZ、機動警察パトレイバーなど、多くのロボットが登場しています。

物語の世界でのロボットは、「想像の世界を具現化するもの」といったファンタジー的な要素や、「人間にはない強大な力を持つ存在」といった破壊的イメージなど、ロボット自体が高い能力を持つ姿が描かれています。

共生する「ヒューマノイドロボット」という存在で生まれたロボットの役割の多様化

さて、現実社会に存在するようになった「ヒューマノイドロボット」は、どのような存在なのでしょうか。「想像の世界を具現化するもの」や「人間にはない強大な力を持つ存在」とはちょっと異なります。

ヒューマノイドロボットは「人間の代わりになる」存在ではありません。AIのエンジンを使用しやすくなり、大きく精度が向上したとはいえ、人間と同じテンポで同じような内容の会話をすることや、人間並みの状況判断を行うことは、まだまだ難しいのが現状です。

目指すものは「人間の代わり」ではなく、「人間をサポートする」存在です。人間だけではなかなか現実的に運用が難しい部分を、ロボットと共に行う、それこそが今後のヒューマノイドロボットの関わり方であると考えています。

ヒューマノイドロボットの特徴として、「機械である」ということが一つ挙げられます。つまり、人間に近い動きをできる「機械」であるため、例えば、長時間の稼働や人間にとっては劣悪ともいえる環境で動き続けることができます。また、ロボットそのものは「感情」を持ちません。そのため精神的にストレスがかかるような作業をサポートすることも可能です。

人間のサポート役であり、機械であるヒューマノイドロボットの良さと、人間が「共生」することができれば、人間にとって、新しい体験や働き方を生み出すことができる存在となるのです。

自閉症について

その中で、自閉症療育の分野では、ヒューマノイドロボットは大きな役割を担えると考えられています。ヒューマノイドロボットが持つ特性が、自閉症の子どもの持つコミュニケーションの特性への対応に効果的に働くためです。

自閉症とは

自閉症(自閉症スペクトラム)は、先天的な発達障害の一つで、認知・言語・社会性・対人関係などの主機能に影響を及ぼす発達障害です。主な特徴として、「社会的コミュニケーションと相互的関係性の持続的な困難さ」や「行動や興味・関心の限定や反復的なこだわり行動・情動行動」などが挙げられます(参考文献1より引用)。

ADDS「自閉症について」をもとに作成(参考文献2)

2010年に行われたアメリカ疾病予防管理センター(CDC)の調査によると、アメリカでは、1000人あたりに16.8人の子どもが自閉症と診断され、この数字は年々増加しています(参考文献3)。また、日本においても、総務省の2014年の調査では、全体で144,000人(人口の約1.13%)が「自閉症、アスペルガー症候群、学習障害(LD)等」と診断されています(参考文献4)。

【参考文献】

1: 『自閉症スペクトラムへのABA入門』(S, リッチマン著、井上雅彦・奥田健次 監訳、東京書籍、2015年)
http://www.tokyo-shoseki.co.jp/books/80937/

2: 特定非営利法人ADDS Webサイト「自閉症について」
http://www.adds.or.jp/about-autism

3: CDC: Autism Spectrum Disorder (ASD) Data & Statistics
https://www.cdc.gov/ncbddd/autism/data.html

4: 総務省『1 発達障害者支援施策の概要」より「厚生労働省の「患者調査」及び「精神保健福祉資料調査」の結果」
http://www.soumu.go.jp/main_content/000458764.pdf

自閉症は、機能向上を図ることができるもの

自閉症の症状は、改善を図ることができるものです。薬物療法や食事療法、作業療法の他、「療育」によって改善することができます。療育とは、「治療」と「教育」を合わせた意味で、自閉症の子供の特性に合わせた療育プログラムを実施することで、少しずつコミュニケーションの取り方を身につけられるように促します。早期療育を提供することで、一般学級に入ることができるほどまで改善される例もあります。

エビデンスに基づいた自閉症療育

自閉症療育が提供される場は、発達支援教育を提供する施設や、放課後デイサービスなどがあります。しかし、実際には、セラピストの不足やノウハウの不足により、効果が出ることが証明されている「エビデンス」に基づいた療育を提供できている施設はまだ限られているのが現状です。

応用行動分析学(ABA)

療育において用いられるエビデンスはいくつかありますが、その中の一つに「応用行動分析」(ABA)があります。

行動分析学とは、行動の原因を解明し行動の法則を発見することを目的とした学問です。その応用科学として、適切な行動の獲得の支援に応用したものが応用行動分析(ABA, Applied Behavior Analysis)です。

ABAを用いた療育のポイントは次の通りです。

  • 行動を細分化して行う
  • 行動に対して強化を行う

行動の修正や獲得を行うためには、何が原因でその行動が起こったのかを明確にする必要があり、そのためには行動を細分化していくことが必要です。また、その行動はよかったものだという自覚がその行動の繰り返しを促すため、そのための「強化」(ほめる、ごほうびなど)を行うことが効果を発揮します。

ABAに基づいた療育セッションは、基本的には次のように進められます。

  • 注意を引く:セラピストへの注意を引き、セッションを行う準備をする
  • 課題を与える:行動を促すための指示をする
  • 反応:子供からの「正反応」「誤反応」「無反応」のいずれかの反応が返ってくる
  • 強化:(正反応の場合) 正しくできたことをほめて、その行動の出現回数を上げることを促す
  • プロンプト:(誤反応、無反応の場合) 正しい行動ができるようにするためのヒントをあげる

応用行動分析(ABA)に基づいたセッションの流れ

ロボットが、自閉症療育の普及を手助けする

上記のような「エビデンスに基づいた自閉症療育」は、効果が見込めるものの、前述のとおりリソースやノウハウの不足により、なかなか広まっていないのが現実です。

この自閉症療育の普及を、ロボットと共に実現しようという取り組みがあります。ヒューマノイドロボットの持つ特性が、後半でご紹介した自閉症療育の仕組みや課題の十分な助けになると考えられているためです。

自閉症とロボットの活用① 自閉症の子供のとのコミュニケーション

自閉症の子供は、刺激を強く感じすぎる、想定外の動きへの対応が苦手、非言語コミュニケーションや相手の表情を読み取ることが得意ではない、という特性があります。

これらに対し、ヒューマノイドロボットは「人の形をしている機械」であるため、表情が少なく怒らないし、決まった動きをします。これは、人間とのコミュニケーションよりも、子供が得る刺激を抑えることができます。

また、手足を動かすことができるヒューマノイドロボットは、子供が非言語コミュニケーションを獲得することの手助けをすることもできます。

自閉症とロボットの活用② 子供に関わる親やセラピストのサポート

なかなかスムーズに取れない自閉症の子供とのコミュニケーションや、粘り強い療育の実践は、子供をサポートする親やセラピストにとって、体力や精神力が求められるものです。特にがん治療や介護において、”Caregiver Quality of Life”という考え方がありますが、患者さん自身を加え、その周りの家族のサポートを行うことは障がいや病気と闘う上では大切な要素です。

その点、ロボットは機械なので、疲れ知らずです。いつでも、同じ動きを、同じような抑揚の声で行うことができます。もちろん、すべてのコミュニケーションをロボットが代わりに行うことはできませんが、子供を二人三脚でサポートする存在になれるはずです。

おわりに

ここまで、ヒューマノイドロボットの特性や考え方と、自閉症療育について取り上げてきました。自閉症療育の分野以外にも、介護や教育など、ロボットの活躍の場面は広がり、人間がより快適に、豊かになるためのサポート役としての役割を担い始めています。

よく「ロボットやAIによって人間の仕事が奪われる」という話もありますが、人間は、きっとロボットに一部を手伝ってもらうことによって、別の役割を担うことができるようになるのではないでしょうか。

5年後、10年後、私たちはロボットとどういう関係性を築いているのか、楽しみですね。

JTPにおけるヒューマノイドロボットと自閉症療育の取り組み

なお、JTPにおけるヒューマノイドロボットと自閉症療育の取り組みについては、下記のページでもご紹介しています。ご興味のある方はぜひご覧ください。

ヒューマノイドロボットによる自閉症療育の支援

 

 

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