採用から育成&リテンションへ ~データで見るミレニアル世代以降の人材事情~

採用から育成&リテンションへ ~データで見るミレニアル世代以降の人材事情~

2018.10.18

デジタル社会を迎える中、人材不足やミレニアル世代とデジタル・ネイティブ世代の台頭を背景に、キャリア形成のあり方、人財育成のあり方が大きく変化しようとしています。2020年以降のビジネスは、ジェネレーションXが年々割合を落としてミレニアル世代とデジタル・ネイティブ世代がマジョリティとして担うこととなります。この世代の会社に対するロイヤルティは「学習・成長の機会を提供してもらえる」こと。今までのようなキャリア形成と人財育成では立ち行かなくなります。これらの課題と施策を解説します。

著者:佐伯 康雄 (日本サード・パーティ株式会社)

新世代の台頭と価値観

デジタル社会を迎える中、人材不足やミレニアル世代とデジタル・ネイティブ世代(ジェネレーションZ)の台頭を背景に、キャリア形成のあり方、人財育成のあり方が大きく変化しようとしています。

世界中で直面している「人材不足」

まず人材不足は、我が国だけが直面している問題ではありません。米国労働省が2018年3月に発表した1月の雇用動態調査では、求人数(非農業部門求人)が過去最高の631万人に対して、雇用人数は524万人、自発的離職者数327万人と求人数と雇用者数の乖離が広がるとともに自発的離職者数も増加の一途をたどっています。

2017年のDeloitteによる日本を含む世界140カ国・10,000人以上のCEO(Chief Executive Officer)と、CHO(Chief Human Officer)を対象としたインタビュー調査報告によると、採用に関して必要とするスキルを持った人材を「見つけられない」「ほとんど見つけられない」という回答が39%あるとしています。

若手が担う労働人口構成

ミレニアル世代とデジタル・ネイティブ世代についてですが、2020年の世界の労働人口の構成は次の通りの予想がされています。

世代割合備考
ベビーブーマー6%1946年~1959年に生まれた世代
ジェネレーションX35%1960年~1980年に生まれた世代
ミレニアル世代35%1981年~1996年頃に生まれた世代
デジタル・ネイティブ世代24%1990年代後半~2010年に生まれた世代

2020年以降のビジネスは、ジェネレーションXが年々割合を落としてミレニアル世代とデジタル・ネイティブ世代がマジョリティとして担うこととなります。

ミレニアル世代の会社に対するロイヤルティは「学習・成長の機会を提供してもらえる」ことで、現状は充分な学習ができていないために退職する可能性があるとの回答は42%です。

さらに、「能力開発・学習機会に加えキャリア形成機会と業績管理が連動しなければ5年以内に会社を辞める」との回答が国別でみると日本:52%、アメリカ:64%、イギリス:71%と高くなります。

出典; Deloitte University Press(2017年)、マンパワーグループミレニアル世代のキャリア(2017年)を加工して作成

世界的潮流『優秀な人財の流出を防ぐ』

このように、必要な時に市場から人材を調達するこれまでのモデルが、既に崩れ始めています。

最重要課題「リテンション施策」

これを受け90%が最重要課題を「リテンション施策」とし社員の新たな学習ニーズに応えることをあげています。次に社員のキャリア形成の改善と企業内教育の改善をあげ、そのために、キャリア形成をダイナミックに支援し継続的な学習と人財育成(Learning and Development)の機会の提供に向けて動き出しています。

出典; Deloitte University Press(2017年)を加工して作成

ITエンジニアの現況

特に、ソフトウェアエンジニアをはじめとしたITエンジニアについては1年~1.5年のサイクルで新しいスキルを獲得し続ける必要性とスキルの陳腐化が加速度的に進む時代に入り、自社がデジタル技術による「破壊的イノベーション」に直面していると認識しているとの回答は90%と非常に高くなっています。一方で、70%が「自社組織には変化に適応するスキルが無い」という厳しい評価を下しています。

これらを背景に、キャリア形成と学習・人材育成の重要性に対して「非常に重要」「重要」との回答の回答者の割合が約7割を超えた国は調査対象の140カ国中、11.4%にあたる16カ国。多くの国で、CEOとCHOが人材不足と新世代へのリテンションに関して危機感を示しています。

日本は、中国(91%)・インド(88%)・ブラジル(87%)に次いで、86%でオランダと並んで高く、具体的な施策の構築と実行が必要となります。

出典; Deloitte University Press(2017年)を加工して作成

課題となる従業員エンゲージメント

我が国における実行上のもう一つの課題は、「従業員エンゲージメント」が極めて低い点です。

最下位に居座り続ける日本の従業員エンゲージメント

2015年のAonによる25カ国の従業員エンゲージメントの測定結果では、世界平均の65%に対して日本は39%と最下位です。これは、この数年、最下位が定位置として甘んじています。

キャリア形成と学習・人材育成の重要性の上位で、世界の労働人口の18.8%を占める中国と15.0%を占めるインドの従業員エンゲージメントは、メキシコ・ベネズエラ(共に78%)・サウジアラビア(74%)に次いで、中国:70%・インド72%と極めて高い結果となっています。

従業員エンゲージメントと企業成長

ケビン・M・クルーゼは著書の”Employee Engagement 2.0″ の中で、従業員エンゲージメントと企業の成長・利益・生産性などの相関性に触れています。

例えば、Kenexaの調査によると従業員エンゲージメントが高い社員が最も多かった企業は、最低の企業と比較して株主総利回り(Total Shareholders Return)が5年間で5倍高いと記しています。従業員エンゲージメントは、社員が自身の仕事に対する誇りをもって、仕事に情熱を注ぐ。プロアクティブに仕事に向かい合い、取組むことで期待以上の成果を出そうとするモチベーションです。

また、もちろん離職率へのインパクトも高いといわれています。最重要課題とされるリテンション施策によって従業員エンゲージメントの改善が望まれます。

動き出した巨大企業

AT&Tの人財育成ビッグプロジェクト

アメリカ最大の通信会社AT&Tがこれらの取組みに着手し始めました。従業員数25万2千人・利益3兆2千億円(FY17)の巨大企業は、クラウド・ビッグデータ・IoTなどの新しいテクノロジーに対応できる必要とするスキルを持った人材を市場から100%調達するのは困難と結論を出しました。2013年から継続的なキャリア開発プログラムをスタートさせ、古いテクノロジーが時代遅れになる前に社員の再教育によるレベルアップとスキルチェンジを図り始めました。

年間予算は308億円。キャリアを4年ごとに変更し、職務の流動性を高め、次々と新しい仕事に適応させることを目標としました。そのためのスキル開発は機能横断型として互換性のあるスキル開発を促すプログラムとなっています。メンター制度の導入や、多様なオンライン学習の提供と大学と連携して学費支援にも33億円の予算を投じています。

プログラムの原則の一つは、退職者を最小限に抑えることを目的として、プログラムに参加を希望する社員全員にレベルアップとスキルチェンジの機会を与えることです。

14万人が対象となりスタートし、2015年には、エンジニア職の半数をこれらプログラム参加者が担い、昇進件数の47%を占めました。また、製品開発サイクルが従来と比較して40%短縮し、収益を上げるまでの時間を32%スピードアップなど効率化と生産性の向上という効果も表れ始めている状況です。

経済成長にも打撃を与える日本の状況を打破するためには

ご承知の通り、我が国は少子高齢化が加速しています。厚生労働省の人口動態統計によると2016年に生まれた子どもの数(出生数)は97万6978人で1899年に統計を取り始めて以来初めて100万人を割り込みました。2017年の出生数も94万6060人と少子化に歯止めがかからない状況です。

2025年には、高齢化率(65歳以上の人口割合)は30%(3677万人)に達し、出生数の減少と共に生産年齢人口は7170万人です。少子化による人手不足はボディブローのように経済成長に深刻な打撃を与えることは確実です。

シニア層の活用

経済産業省では「IT人材の最新動向と将来推計に関する調査結果」(2016年)において、今後のシニア層の増加推移を2010年:9.7万人(全IT人材に占める割合:10.9%)から2020年:20.3万人(同割合:22.0%)、2030年:23.7万人(同割合:27.7%)と右肩上がりで増加し、2030年には約3人に1人がシニア層で占められると予想しています。

これを受けIT分野での多様な人材活用策の1つとして、増加する50歳以上のIT人材すなわち、シニア層の活用を掲げました。

2018年5月には内閣官房 一億総活躍推進室にて、「ニッポン一億総活躍プラン」フォローアップ資料が公開されました。その中で、「働き方改革」として『高齢者の就労促進』について取り上げられています。ここには、65歳までの定年延長や65歳以降の継続雇用延長を行う企業への支援、高齢者スキルアップ・就職促進事業」などに着手することが明記されています。

出典; Deloitte University Press(2017年)を加工して作成

若手層とシニア層、両方を取り込むキャリア形成を

AT&Tのキャリア形成プログラムは、日本の企業のモデルプログラムともいえます。今後マジョリティになるミレニアル世代とデジタル・ネイティブ世代に対するリテンション施策としてだけではなく、古いテクノロジーを有する社員に対しても、教育・能力開発に優先的な投資を行っています。

成長できる機会の可視化。やりがいのある仕事への積極的なキャリアチェンジによるキャリアパスの確立。これらによって明確な目標設定が示されることで、対象の社員は自らのキャリア形成の進捗を能動的に対応する体質へと変貌を遂げる。このようにトップが人財育成を重視する社風を築くことで、人的リソースを社内調達できる文化をも醸成できることの実証が進みつつあります。「従業員エンゲージメント」ワースト1位の日本にとっては、大いに学ぶべき取組みと言えるのではないでしょうか。

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