医療機器メンテナンス入門 ―画像診断装置保守への誘い―

医療機器メンテナンス入門 ―画像診断装置保守への誘い―

はじめに

皆さんはこんな経験をした事はありませんか。アポイント先に急ぎ、駅のエスカレーターを駆け上がろうとしたら、『只今、作業中です。階段をご利用ください』

あるいは、オフィスに戻ると2台しかないエレベーターの内1台がメンテナンス中で、待ち時間にイライラ。

普段から『当たり前』に享受しているサービスや機能が使えない、受けられなくなった途端、ちょっとした被害者意識から、「何で?」なんて思ってしまいます。

メンテナンス作業は『当たり前』を作る、維持する作業。ユーザーにとっては購入時に保証された機能が『当たり前』に動作する状態が普通。『当たり前』を維持する作業を行ったところで評価の対象にはならないのは『当たり前』。エレベーター、エスカレーターのメンテナンス作業や道路の補修作業中は「ご迷惑をおかけしております。」とユーザーに謝罪しながらの作業です。しかし、どれも人の命に関わる大切な作業です。

今回は、医療機器の中でも、健康診断を始め、診断で使用される「画像診断装置」のメンテナンスについてご紹介させていただきます。

医療機器の保守点検について

保守点検とは、医療機器を詳細に点検し、機器の性能を確認すると共に消耗部品を交換することで、次回の定期点検まで性能の維持を確保するために行われる点検で、医療法によって定められております。

医療法で定められている医療機器の保守点検は、病院、診療所または助産所の業務であり、医療機関が自ら適切に実施すべきものと定められていますが、医療法施行規則(平成30年5月8日改正)第9条の12に定める基準に適合し、「医療機器の保守点検の業務を適正に行う能力のある者」に委託して行うことも差し支えないものであるとされています。

保守点検作業の内訳

もう少し具体的に、保守点検作業では何を行うのでしょうか。一例ですが、次のものが挙げられます。

  • 清掃
  • 校正(キャリブレーション)
  • 消耗部品の交換
  • 解体点検(故障の有無にかかわらず)
  • 電源入力と外装金属部・装着部等の絶縁抵抗、出力安全機構の確認
  • 出力電流値等の性能維持作業

上記はもちろんのこと、装置稼働状況分析ツールを使用し故障予防対策を行い、装置を安定稼働させることで、装置トラブルによって医療従事者や患者様にご迷惑をおかけすることがないよう、作業が行われます。

画像診断装置とは

最近テレビで多くの医療をテーマにしたドラマやバラエティ番組が放送され、様々な医療機器の名前などを耳にすることがあるかと思います。その代表的なものが、画像診断装置であるMRIとCTでしょう。MRIとCTは外観は似ていますが、実は撮影方法が全くの別物です。

MRIとは

まず、MRI(Magnetic Resonance Imaging、磁気共鳴画像)は、強力な磁気と電波を利用して体内の水素原子の量と分布の状態を画像化します。骨の影響を受けにくく、病変と正常組織の濃度差がわかりやすいことや、造影剤を用いなくても血管を写すことができ、脳や筋肉など水分の多い箇所の画像診断に力を発揮することができます。

また、放射線被曝の心配がないため、妊婦や子供を対象とした検査や繰り返し行う検査に適しています。

デメリットとしては、磁気を使うため、体内に金属が入っていたりすると行なうことが出来ません。他にも騒音が大きい、検査出来る範囲が狭い、検査に時間を要する等があります。

CTとは

次に、CT(Computed Tomography、コンピュータ断層撮影)は、体にエックス線を照射し、得られた情報をコンピュータで解析して画像を作ります。MRIと比べて検査時間が大幅に短く、また広範囲の検査にもCTが適しています。

しかし、CTはエックス線を使用するため、放射線被曝があることがデメリットとして挙げられます。

このように、同じ画像診断装置でも、撮影する部位や用途によって、それぞれメリット・デメリットもあります。最近は、MRIは騒音の低減化や撮影時間の短縮、CTはより低被ばくでの撮影も可能となってきているため、また状況が変わってくるかもしれません。

医療機器メンテナンスを支える、品質体制

医療機器のメンテナンスは、怠ると命にかかわるようなことも起こり得ますので、非常にシビアな作業です。そのため、医療機器メンテナンスのサービス提供にあたっては、細かな品質基準が設けられています。

品質維持

まず、品質維持の基準として、ISO13485(医療機器の品質マネジメントシステム)が挙げられます。作業体制や作業施設等に対し、細かな品質基準が取り決められ、これを満たす必要があります。また、定期的な更新も求められます。

エンジニア教育体制

品質基準を満たした作業を行うためのエンジニアを教育する体制も、また必要な要素です。

例えば弊社では、カテゴリ別に専門技能のレベルを設け、責任技術者・上位レベル技能者による所定の教育を実施し、有効性確認と認定のプロセスを経て、認定しており、厳しいチェック体制によって保たれています。

付帯知識

医療機器メンテナンスにあたり、対象の医療機器の知識はもちろんのこと、その他様々な知識を備えることで、正確かつ点検予定時間を超過することなく、作業を完了させることがエンジニアには求められます。

<求められる知識の例>
X線、電気、機械工学、感染症、危険予知、薬機法、ISO品質

安全対策

作業にあたるエンジニアには、自分の身を守るための安全対策も求められます。

エックス線が発生する管理区域(検査室)に入室する際には、必ずフィルムバッジ(個人線量計)を身に着ける必要があります。男性は胸部、女性は腹部(妊娠の可能性が無い女性を除く)に取り付けることが基本で、月間のエックス線被爆量が一定を超えないよう、管理しないといけません。

また、検査室に入室する時は防護服を必ず着用し、防護版などを活用してできる限りエックス線の被爆を抑える形をとる必要があります。鍵を閉める事が出来るのであれば、操作室側の入り口以外は閉めること、もし閉めることが出来ない場合は必ず入り口には入室禁止の看板を置き、操作室の入り口についても人が入らないように、細心の注意を払う必要があります。

保守点検に携わるエンジニア

上述のような品質基準を満たし、十分な安全対策の下で作業を行う保守点検エンジニア。点検作業は、役割が分かれるメインエンジニアとサブエンジニアの2人体制で実施されます。

メインエンジニアについて

メインエンジニアとは、点検作業のコントロールを行う責任者。

後述のサブエンジニアとしての経験を積み、MRIの専門的な技術・知識を身に付け、海外メーカー機器の場合は海外研修を受講し、OJTを経て、メーカーより認定取得した者がメインエンジニアとなることができます。

実際の点検業務は、病院訪問時に放射線技師からの装置使用時の状態についてのヒアリングを行い、点検手順書に沿って作業を進めます。また、技師からお伺いしたご依頼を対応することはもちろん、装置の不具合の有無を確認し、不具合がある場合はその解決を行い、最終的には正常な状態にして引き渡しします。

 

サブエンジニアについて

サブエンジニアは、メインエンジニアと共に点検業務を実施し、メインエンジニアが重要な操作に集中できるよう、多岐にわたる細かな作業を担当します。

具体的には、システム調整の補助(治具のセット、測定値入力等)や、ハードウェアの状態チェック(外観、ネジ緩み、オイル漏れ等々)、清掃、またその他メインエンジニアの目の届かない箇所のチェックを行い、異常個所がある場合は報告します。

一見するとサブエンジニアは点検の中の一部の簡単な作業しか行っていないのではないか、と思われるかもしれませんが、細かな気配りが求められ、メインエンジニアとは異なる難しさがあります。

医療機関や地域によって異なる特性

保守点検業務の対象は、全国各地となり、エンジニアは各地を飛び回っていますが、その地域特性は如実に表れます。作業手順や考え方も地域によって違います。

サブエンジニアは、現地で初めてお会いするメインエンジニアと作業を円滑に進めるために、コミュニケーションを取り、それぞれのメインエンジニアの指示に沿って、間違いの無いように作業を行います。

地域によって微妙に異なる、サブエンジニアに求められる作業範囲

先ほど「地域特性」について触れましたが、地域によって微妙に求められる作業範囲が異なることがあります。

  • ある地域の点検では、大抵の場合、装置の調整やパフォーマンステストの実施まで依頼されます。実施の際はメインエンジニアの指揮監督のもと、サブエンジニアが実施するため、コンソール操作(調整やパフォーマンス確認操作)まで理解していなくてはなりません。
  • 別の地域では、メインエンジニアより、調整の銅板セット位置や装置の角度の違いがあり、サブエンジニアは、メインエンジニアの指示通りに調整を行います。
  • さらに、別地域の点検において、チラー(室外機)のフィルター清掃を実施する際には、コンプレッサーを用いた装置で水圧をかけて汚れを落とします。通常はホースを水道につないで水をかけ汚れを落とす方法が一般的ですが、特定の地域ではコンプレッサーにより実施する事が多く、コンプレッサーの組み立て対応も行えなければなりません。

このように、それら地域特性を頭に入れ効率的に作業が進むよう、最大限の配慮を行う必要があるのです。

コミュニケーションと対応力が求められる、サブエンジニア

中には、緊急を要する検査を行う装置もあります。もちろん点検作業であっても、時間を無駄にはできません。無駄な時間を消費することで作業が長引いてしまえば、医療機関や医療従事者のみならず、検査を待つ患者様へ、多大なご迷惑に繋がるかもしれません。それを防ぐためにも、私たちがどんな些細な事でも意識しすぎて過ぎることはないのです。

サブエンジニアにとって重要なことは、エンジニアの違いに沿って柔軟に対応できる適応能力であると言えるでしょう。作業をただ行うことだけではなく、コミュニケーション能力と臨機応変な対応能力が求められ、技術職の中でも、独特な業務ではないだろうかと時々考えます。

おわりに

空港の駐機場で出発する飛行機に向かって手を振ってくれる作業員さんたち。旅立つ私達に手を振ってくれていると思っていたのですが、実は飛行機そのものに「しっかり頼むぞ!」と手を振っているのではないか、と思う今日この頃です。

世の中には様々な作業、仕事があり、その恩恵を何処かの誰かが受けています。Mr.childrenのアルバム「HOME」の中に「彩り」という名曲があります。「こんな仕事が、作業が何の為になるんだろう?」と思い悩みながら日々の仕事に従事している方がいらっしゃれば一度聴いてみて下さい。少しだけ胸のつかえが取れるかもしれません。


※保守点検サービスについては、各医療機器メーカー・医療機関との取り決めにより異なることがあります。実際のサービス提供内容については、詳しくは下記のページをご参照いただくか、お問い合わせください。

医療機器サポート https://www.jtp.co.jp/services/life-sciences/medical/

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